三菱UFJのコロナ債

日経新聞の記事によると三菱UFJFGが「コロナ債」の発行を計画している。金額は600億円程度で、「調達した資本は資金繰りに苦しむ中小企業への融資にあてる」とのこと。さらに、「まず海外投資家向けに外貨建てで発行するもようだ。今回は環境対応や社会問題の解決に使途を限る「サステナビリティボンド」として発行し、新型コロナ以外の目的にも資金を使う」とあるが、UFJはこの債券をTLAC債として発行するとある。

 

つまり、TLAC債を発行するのに、「コロナ債」や「ESG投資」としてマーケティングしているだけだ。新型コロナで資金繰りに困る企業向けの融資はいずれにしろ増えているし、本「コロナ債」が一対一対応でコロナ関連融資となっているわけではない。「ESG投資」という立て付けにしておけば今は資金が集まるので、これを期に資金調達する作戦なのだろう。

 

さて、このTLAC債(Total Loss-Absorbing Capacity)だが、日米欧の金融当局が作る金融安定理事会(Financial Stability Board, FSB)が2015年に定めたG-SIBsに対する資本規制に対応した債券だ。日本では2019年3月末に施行され、三菱UFJFG、みずほFG、三井住友FG、そして野村HDが規制の対象になっている。(野村HDはG-SIBではないが、金融庁裁量でTLAC規制の対象となっている。)

 

本規制の目的は、大手金融機関が危機に陥った場合、(公的資本を使うのでなく)株主及び債権者に損失を負担させ資本再構築を行うことで、金融機関の機能を維持しつつ秩序有る破綻処理を行う枠組みを作ることである。

 

最低所要水準の計測自体は、特例や経過措置等あり複雑なのだが、基本的にはバーゼルⅢの自己資本(CET1+AT1+Tier2)と「その他外部TLAC調達手段」の合計をTLACつまり総損失吸収キャパシティとし、この値が①リスク・アセット比で18%以上かつ②レバレッジ・エクスポージャー比(レバレッジ比率の分母)の6.75%以上であることが求められる。

 

ここで「その他外部TLAC調達手段」であるが、TLAC債の他、借入れも含まれる。その条件に関しては、

・払込済である

・無担保である

・破綻処理における損失吸収力を損なうネッティングの権限の下にない

・最低残存期間が少なくとも1年

・保有者によって期限前に償還されない

・ステップアップ金利等の償還の蓋然性を高める特約が無い

・特に海外発行の場合は、劣後性(実質破綻認定時に損失吸収される)を明示する必要

等の条件がある。劣後性の債券となるので発行銀行にとっては大きなコスト増となるので、タイミングよく資金調達する必要がある。そんな中、「コロナ債」としての需要を見込んだMUFGが今回発行に至るわけだ。

 

ところで、これもこの手の国際規制のややこしいところなのだが、TLAC規制にしてもFSBの最終文書1)の定めるTLAC適格債と、金融庁のTLACに関する告示2)の間に、微妙に違いがある。

 

1) "Guiding Principles on the Internal Total Loss-Absorbing Capacity of G-SIB"

2)「銀行法52条の25の規定に基づき銀行持株会社が銀行持株会社およびその子会社等の経営の健全性を判断するための基準として定める総資本吸収力および資本再構築力に関わる健全性を雨の基準であって銀行の経営の健全性の判断のためになるべきもの」平成31年金融庁告示第9号"