書籍『武器としての交渉思考』

筆者の瀧本氏が京都大学で教えていた交渉の手法や技術を解説した書籍。前半はBATNA (Best Alternative To Negotiated Agreement)やZOPA(Zone of Possible Agreement)といった交渉学では必ず出てくる概念の説明。後半は交渉をする上で留意すべき心理的特徴やそれを踏まえた交渉テクニックを紹介している。

 

交渉の目的が、自分にとってより良い条件で相手と合意することだとすると、事前準備として、自分はどういう条件だとより満足度が高いのかをきちんと理解しておく必要がある。BATNAというのは、合意の最低ライン(買い手としての値段交渉だったらこの値段以下なら買えるという値段) のことで、最終的に合意すべきかどうかの判断材料になる。自分のBATNAはしっかり調査・分析すれば決定できるのだが、相手のBATNAは分からないケースが多い。つまり、商品の値段交渉をしていて自分は100万円以下なら買えるのだが、相手はいくら以上なら売ることができるのかは分からない。もし150万円以上でないと絶対に売らないのであれば、交渉しても意味がない。逆に、80万円以上なら売ろうという気があるのなら、しっかり交渉してより安く売ってもらうことを目指すべきだ。(この後者のケースでは100万円が自分のBATNA、80万円が相手のBATNA、BATNAの区間80万円から100万円がZOPAとなる)

 

このZOPAの中でより自分に有利な合意を目指すのだが、交渉は骨が折れる作業なので安易な合意をしてしまうケースも多い。99万円とオファーされ、「じゃあ買います」と言ってしまうようではいけない。しっかり調査することはもちろんのこと、交渉中も相手から情報を引き出すことをしっかりするべきだ。交渉中の沈黙も耐え、相手が情報を出してこないのならそれを盾にさらに強気の別の条件を突きつけることもすべきだ。

 

交渉は理詰めだけでは進められないケースも多い。本書では以下のような相手との交渉テクニックを紹介している:

①「価値理解と共感」を求める人 →相手の価値観に合わせた工夫をする。仮想敵を想定して共犯関係の構築も選択肢。

②「ラポール」を重視する人 →信頼関係構築のための時間を作る。好意の返報性に働きかける、相手との共通点を話題にする、共同作業をするというのが効果的。

③「自律的決定」にこだわる人 →交渉リテラシーが高い人にはプロ&コンの阪大材料を提供して決めてもらう、低い人には相手のメリットをアピール。

④「重要性」を重んじる人 →相手の趣味嗜好を理解して接する。根回ししておき、「聞いてない!」と言われるリスクを減らす。

⑤「ランク主義者」の人 →こちら側も高ランクの人を連れて交渉に臨む、ランクを超えた大きな理想を共有してもらう。

⑥「動物的な反応」をする人 →その人達なりの行動パターンがあるので、それを理解する。

最後に、交渉に臨む際のチェックリストは、「アウトプット」「ドレスコード」「NGワード」の確認とのこと。

 

あたりまえのことかもしれないが、しっかり準備して、相手の立場に立って話し合いをすすめるということに尽きる。実際こういう場面は精神的な消耗も多いのだが、事前準備してればそれも低減される。日本でこういうトレーニングを受ける機会は少ないが、こういうルールなんだとおもってやっていると、ちょっとしたゲームみたいに楽しめることもある。