ビア『ORVAL オルヴァル』

これもビックカメラで買った。品揃えもなかなかしっかりしていて良い。

 

ORVALはベルギーのオルヴァル修道院で醸造されるトラピストビールの銘柄。オルヴァル修道院が造っているビールは2種類あるが修道院の外に流通しているのは1種類だけだ。

 

敷地内にあるマチルドの泉と呼ばれる小さい泉があり、この水がビール醸造にも使用されている。この泉には伝説がある。イタリアのマチルド・トスカニー伯爵夫人が泉のほとりに腰掛けていたところ、夫の形見である結婚指輪を泉に落としてしまった。夫人が祈ったところ、一匹のマスが指輪を加えて水面に姿を現した。その時彼女が、"Truly this place is a Val d'Or (Golden Valley)" (本当にこの場所は黄金の谷だ)、と行ったとされ、Orvalという名のもとになった。このビールのラベルにも下のような指輪を加えたマスが描かれている。

 

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味はこちらがしっかりまとめてくれている。

濁りのある深い琥珀色の色調をしています。泡立ちは非常に豊かで、強めの炭酸も特徴的です。

香りからはとても複雑性を感じます。
りんごやナシなどのフレッシュフルーツ、熟したあんずや桃など凝縮感のあるフルーツの香りがあります。
お花を思わせるような上品さと、軽いシトラスの爽やかさもあり。酵母由来の独特な野性味もわずかに感じました。

味わいはフルーティーながらも複雑味があり、滋味深さがありました。
炭酸がしっかり効いていて、口の中にピリリとしか食感を与えます。
フルーティーな含み香があり、苦味は全体を通して続きます。
甘さは弱めで、余韻には喉のあたりをじわりと温めるアルコール感があります。温度が上がると苦味が穏やかになり、甘味と風味が強まります。

 

 

ビア『やばいやばい ストロングスコッチエール』

2020年冬のジャパン・ビアタイムズの記事で、とても丁寧にスコッチエールの紹介がされている。

 

現在、スコッチエールと呼ばれるビールは濃色、アルコール度数は強めで甘味がある。たいていの場合、アルコール度数は7~10%でコクがあり、小麦、チョコレートとカラメル麦芽の風味を感じる。一般的にはホップの存在感は控えめで、香りや味はほとんどなく、甘い麦芽とバランスを取るためにほどよい苦味を残す程度に使われている。レーズン、イチジクやプラムなどのドライフルーツの香りが立っていることも多い。一方で、気温の低いスコットランドではエール酵母が比較的低温で発酵されるため、新鮮な果実味を生むエステル香が抑えられている。スコッチエールはフルボディになる傾向があるが、アルコールとホップの苦味のバランスが絶妙で、甘ったるいシロップのようにはならない。また多くの場合、出荷前に一定期間熟成され、長期間熟成されたものは酸化が進み、ワインやシェリー酒のような香りが引き立ってくる。

 

この記事が出てから1年程経つが、季節もちょうどよいのでスコッチエールを飲んでみたくなった。たまたま新宿のビックカメラに行く機会があってベアードビールのやばいやばいストロングスコッチエールを見つけた。

 

ベアードブルーイングが2000年に静岡県沼津に設立した。設立者のブライアン&さゆりベアードは、このブルワリー設立前の1997年に東京での仕事を辞め、米国カルフォルニアでビール醸造を学んだとのこと。

 

Mark Meli本の評価は「☆☆☆」。上の説明にもあるが、フルボディでローストされたモルトのかすかな甘味と苦味の味わいを味わうことができる。

 

書籍『武器としての交渉思考』

筆者の瀧本氏が京都大学で教えていた交渉の手法や技術を解説した書籍。前半はBATNA (Best Alternative To Negotiated Agreement)やZOPA(Zone of Possible Agreement)といった交渉学では必ず出てくる概念の説明。後半は交渉をする上で留意すべき心理的特徴やそれを踏まえた交渉テクニックを紹介している。

 

交渉の目的が、自分にとってより良い条件で相手と合意することだとすると、事前準備として、自分はどういう条件だとより満足度が高いのかをきちんと理解しておく必要がある。BATNAというのは、合意の最低ライン(買い手としての値段交渉だったらこの値段以下なら買えるという値段) のことで、最終的に合意すべきかどうかの判断材料になる。自分のBATNAはしっかり調査・分析すれば決定できるのだが、相手のBATNAは分からないケースが多い。つまり、商品の値段交渉をしていて自分は100万円以下なら買えるのだが、相手はいくら以上なら売ることができるのかは分からない。もし150万円以上でないと絶対に売らないのであれば、交渉しても意味がない。逆に、80万円以上なら売ろうという気があるのなら、しっかり交渉してより安く売ってもらうことを目指すべきだ。(この後者のケースでは100万円が自分のBATNA、80万円が相手のBATNA、BATNAの区間80万円から100万円がZOPAとなる)

 

このZOPAの中でより自分に有利な合意を目指すのだが、交渉は骨が折れる作業なので安易な合意をしてしまうケースも多い。99万円とオファーされ、「じゃあ買います」と言ってしまうようではいけない。しっかり調査することはもちろんのこと、交渉中も相手から情報を引き出すことをしっかりするべきだ。交渉中の沈黙も耐え、相手が情報を出してこないのならそれを盾にさらに強気の別の条件を突きつけることもすべきだ。

 

交渉は理詰めだけでは進められないケースも多い。本書では以下のような相手との交渉テクニックを紹介している:

①「価値理解と共感」を求める人 →相手の価値観に合わせた工夫をする。仮想敵を想定して共犯関係の構築も選択肢。

②「ラポール」を重視する人 →信頼関係構築のための時間を作る。好意の返報性に働きかける、相手との共通点を話題にする、共同作業をするというのが効果的。

③「自律的決定」にこだわる人 →交渉リテラシーが高い人にはプロ&コンの阪大材料を提供して決めてもらう、低い人には相手のメリットをアピール。

④「重要性」を重んじる人 →相手の趣味嗜好を理解して接する。根回ししておき、「聞いてない!」と言われるリスクを減らす。

⑤「ランク主義者」の人 →こちら側も高ランクの人を連れて交渉に臨む、ランクを超えた大きな理想を共有してもらう。

⑥「動物的な反応」をする人 →その人達なりの行動パターンがあるので、それを理解する。

最後に、交渉に臨む際のチェックリストは、「アウトプット」「ドレスコード」「NGワード」の確認とのこと。

 

あたりまえのことかもしれないが、しっかり準備して、相手の立場に立って話し合いをすすめるということに尽きる。実際こういう場面は精神的な消耗も多いのだが、事前準備してればそれも低減される。日本でこういうトレーニングを受ける機会は少ないが、こういうルールなんだとおもってやっていると、ちょっとしたゲームみたいに楽しめることもある。

書籍『反脆弱性』

日本では2017年に発行されたタレブの著書。著者によると、「脆い」の対義語は「頑健」とか「耐久性がある」ではないとのこと。脆いものは不安定な環境下で損害が発生してしまう、頑健なものはそういう状況でも無傷でいられるかもしれない。しかし、「反脆さ (antifragile)」を兼ね備えたものは、そういう不安定・不確実な状況から利益を生むことができる、と筆者は話す。

 

そういう反脆いポジションを取る(ロング・ベガやロング・ガンマ)ことで、不安定な環境で生き残っていこうというのが本書の根本的なアイディアだ。致命的でない程度に危険な経験をするとで、より環境変化や不確実な環境に強くなるというのは、直感的にもうなずける。同じ組織でずっと働いてきた人よりも、リストラ・転職を経験した人の方が反脆いというのは自然なことだ。リストラや転職という経験は一見遠回りしている非効率な(本書では「冗長」と表現されている)人生の様に見えるが、反脆さの礎になっている。

 

面白かったのは組織・社会レベルでの反脆さの議論だ。組織レベルで反脆弱になるためには、その構成員である個体は脆い状態でなくてはならない。企業単体では大きなリスクを取り利潤を追求している。もちろん、競争の過程で失敗するビジネスもある。だが、市場全体としては競争が盛んで、企業の新陳代謝があるほうが変化に強いものとなる。同じ企業がいつまでも生きながらえていると、イノベーションも無くなるし、その企業の代替もない状態になってしまう。

 

この議論を見ていて思うのは、現在のコロナ禍の中での政府の役割だ。各国政府は今回のコロナ禍を受けて補助金や流動性供給を行っている。一時的なサポートが必要だというの点は賛成するが、それが慢性化するとシステムを脆くするだろう。日銀はすでにかなりの期間、大量の資金を市場に供給している。その恩恵を受けている企業や個人は多いだろうが、市場機能は役割が薄れて新陳代謝は滞っている。景気が良いうちはそれで良かったが、環境が変化するときに脆さを露呈することになる。本来脆い存在として、リスクを取ってビジネスをするべき企業が過剰に保護されているように思える。市場からの資金調達をストレス無く行える状況に慣れすぎてしまうと、そうでない状況になったときに柔軟に対応できない。市場全体としても、金融市場を通じて問題のある企業を検知出来ないとやはり社会全体のシステムは脆くなってしまうだろう。

 

 

不動産関連ファンド

以前J-REITに関して少しまとめたが、今回は非上場のファンドに関して。

 

大和みずほといった大手金融機関が私募での不動産ファンドの運用額を増やしてきた。三菱UFJ信託銀行のレポートによると私募リートの資産総額は2010年頃はほぼゼロだったのが、2019年には3兆円を超える(エクイティ部分は約2兆円か)。投資家は年金が20%、中央金融法人が27%、地域金融機関が37%とのこと。(私募リートと私募ファンドの違いはここでは一旦無視する。上の3兆円とは別に私募ファンドが運用されているが、私募ファンドに関しては性格なデータが無い模様)

 

私募リート・私募ファンドは、2012年以降の低金利環境下でインカムを稼げる投資対象として人気を博してきた。しかも、ファンドの決算期ごと(私募リートの場合多くは半年ごと)にしか時価の洗い替えをしないし、その評価も取引価格ではなく鑑定評価による。なので、Jリートと比較して短期的な影響は少ないとされる。

 

さて、昨今のコロナ禍の影響はどうかというと、まだデータとしては見えてこない状況だ。リーマン・ショックの際の影響を見ると2008年以降インカムは比較的安定的に推移した一方、キャピタルのやられは2年以上かけてゆっくり減少していった。トータルリターンでも2010年まで約2年程度マイナスの状況が続いた。まず、ホテル系が大きくやられているのは想像に難くなく、観光客がここから以前の水準に戻るかというとすぐには難しいだろう。オフィスも企業が今後テレワークをどの程度本気で推進していくのかにもよる。ここは緊急事態宣言が開けた6月以降の企業の方針を確認する必要がある。

日本企業の「内部留保」とコロナ危機

日本の内部留保至上主義について産経の記事に記事がある。日本の大手企業は平時に内部留保(ここでは現金保有としておく)を蓄えており、今回のコロナ禍で資金繰り・雇用維持に役立っていると。

 

平時には批判されてきたこの「ため込みすぎ」であるが、国際比較で日本企業はどの程度現金保有しているのか、最近BISがレポートで言及している。

 

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グラフは「(現金+短期資産ー短期負債+利息費用)/総資産」を表しており、ボックスは上位25%、75%タイル点を表している。 

 

まず、他国と比較して流動性の確保は非常に高いことが分かる。また先の金融危機時と比較しても、現金保有率を増やしていることも確認できる。産経の記事に「リーマン・ショック時に、「銀行がなかなかお金を貸してくれない」と資金繰りに四苦八苦した経験」から内部留保確保を進めているという指摘と整合的だ。

 

 

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本レポートではシナリオ分析も行っており、売上が25%下がる前提(費用弾力性:60%とする)で「保有キャッシュ+収益」が「営業費用+利息費用」を下回る企業の比率を推計している。この資金不足に陥る企業の比率も日本の場合、他国と比較して低い値になっている。

 

ただ、今回のコロナ禍は功を奏しつつある高い現金保有比率だが、ポストコロナの時代の成功を約束するものではない。メリット同時にデメリットもある。

 

そもそも企業が現金比率を高めているのは、危機時に流動性が確保できないという想定に基づく。本来ならば、コロナ危機で一時的に収益が下がっている企業は金融市場で資金調達できる、もしくは金融当局が必要に応じて流動性を供給するという形で危機を乗り越えるべきだと思う。実際、現状米国ではFRBが資金供給を出動しており、コロナ危機が一時的なショックでその後の収益性が期待できる企業は資金繰りに困っている状況ではない。

 

企業が内部留保を優先するということは、社会の将来への投資が制限されることを意味する。それは見えにくい形で成長率低下等のコストになっていく。また、コロナショック後の世界は、人々の選好も変わるはずで多くの企業は何らかの形でビジネスモデルを変革していく必要がある。現金確保を優先するというのは、この企業の新陳代謝をすすめるという観点からはマイナスである。

人の免疫と新型コロナウイルス

先日、抗体検査に関する朝日の報道があり、東京都では0.6%の人が陽性と判定されたとのこと。素人の私の第一印象は「かなり小さい」である。私の解釈では、抗体というのは「その病気に感染したりワクチンを摂取したりして獲得するもので、その抗体を保有しているのであればそのウイルスや細菌による病気にかかりにくくなる」というものだ。これが正しければ、新型コロナウイルスに関してはこれまでに日本の0.6%程度の人しか感染(無自覚のものも含む)しておらず、残りの99%の人は感染リスクがあるという事になってしまう。4月末のニューヨークにおける検査では14.9%だったので、これと比較してもかなり小さい。

 

以前より言われていた集団免疫の基本的な考え方に基づくと、個体レベルでは一度感染するもしくはワクチン接種による獲得免疫により病原体への耐性ができることになり、人口の60%程度の人が感染しないと集団免疫が達成されず1)、それまでは感染が拡大されてしまうので、今回の数字は社会的にも安心感を与えるものではない。

 

しかし、Yahoo!ニュースの宮坂教授のインタビューで、抗体の量や陽性率だけを見ていても、集団免疫が出来ているかは判断できないのではないかと指摘されている。これまでの集団免疫は、獲得免疫の抗体というパラメータのみをみて判断している状態である。

 

インタビュー記事によると、個体レベルではウイルスに対する防御は2段構えであって、自然免疫と獲得免疫がウイルス排除の役割を果たす。免疫システムは複雑だが、単純化すると自然免疫は先天的に備わった免疫、獲得免疫は後天的に外来異物の刺激に応じて形成される免疫のことである。自然免疫のシステムは、従来獲得免疫のサポート程度の役割を果足していると考えられてきたが、近年の研究により、獲得免疫の発動に重要な役割を果たし、また様々な刺激によって自然免疫自体も強化されることが分かってきた。

 

現在、コロナウイルスとの関連性が指摘されているBCGであるが、結核菌に対する免疫だけでなく、自然免疫を強化・訓練していることが示唆されている。日本においてかなりの人が自然免疫のみを使ってウイルスを撃退した可能性を教授は指摘している。

 

教授の指摘が正しく、(たとえばBCGの影響により)自然免疫のみでウイルス排除が出来ている状況が成立しているのだとすると、現在の抗体陽性率の低い状況とコロナウイルスの感染拡大が限定的な状況の説明がつく。

 

 

 

 

1)基本生産数(R_0)が2.5だとすると、集団免疫閾値は(1-1/2.5)=60%となる。R_0は「集団中に1人の感染者が存在する場合に、その感染者が感染力を失うまでに直接感染させる感受性者(未感染者)数」と定義され、その病原体の感染力の指標となる。今、集団のうち\rhoの割合の人が既に感染していたとする(0 \leq\rho\leq1)。この状況で1人の感染者が、あたらに感染させる感受性者は(1-\rho)\times R_0 。流行が収束に向かうためには、1人の感染者から感染する人数が1を下回る必要があるので、(1-\rho)\times R_0<1となり、この条件にR_0 = 2.5 を代入すればよい。