人の免疫と新型コロナウイルス

先日、抗体検査に関する朝日の報道があり、東京都では0.6%の人が陽性と判定されたとのこと。素人の私の第一印象は「かなり小さい」である。私の解釈では、抗体というのは「その病気に感染したりワクチンを摂取したりして獲得するもので、その抗体を保有しているのであればそのウイルスや細菌による病気にかかりにくくなる」というものだ。これが正しければ、新型コロナウイルスに関してはこれまでに日本の0.6%程度の人しか感染(無自覚のものも含む)しておらず、残りの99%の人は感染リスクがあるという事になってしまう。4月末のニューヨークにおける検査では14.9%だったので、これと比較してもかなり小さい。

 

以前より言われていた集団免疫の基本的な考え方に基づくと、個体レベルでは一度感染するもしくはワクチン接種による獲得免疫により病原体への耐性ができることになり、人口の60%程度の人が感染しないと集団免疫が達成されず1)、それまでは感染が拡大されてしまうので、今回の数字は社会的にも安心感を与えるものではない。

 

しかし、Yahoo!ニュースの宮坂教授のインタビューで、抗体の量や陽性率だけを見ていても、集団免疫が出来ているかは判断できないのではないかと指摘されている。これまでの集団免疫は、獲得免疫の抗体というパラメータのみをみて判断している状態である。

 

インタビュー記事によると、個体レベルではウイルスに対する防御は2段構えであって、自然免疫と獲得免疫がウイルス排除の役割を果たす。免疫システムは複雑だが、単純化すると自然免疫は先天的に備わった免疫、獲得免疫は後天的に外来異物の刺激に応じて形成される免疫のことである。自然免疫のシステムは、従来獲得免疫のサポート程度の役割を果足していると考えられてきたが、近年の研究により、獲得免疫の発動に重要な役割を果たし、また様々な刺激によって自然免疫自体も強化されることが分かってきた。

 

現在、コロナウイルスとの関連性が指摘されているBCGであるが、結核菌に対する免疫だけでなく、自然免疫を強化・訓練していることが示唆されている。日本においてかなりの人が自然免疫のみを使ってウイルスを撃退した可能性を教授は指摘している。

 

教授の指摘が正しく、(たとえばBCGの影響により)自然免疫のみでウイルス排除が出来ている状況が成立しているのだとすると、現在の抗体陽性率の低い状況とコロナウイルスの感染拡大が限定的な状況の説明がつく。

 

 

 

 

1)基本生産数(R_0)が2.5だとすると、集団免疫閾値は(1-1/2.5)=60%となる。R_0は「集団中に1人の感染者が存在する場合に、その感染者が感染力を失うまでに直接感染させる感受性者(未感染者)数」と定義され、その病原体の感染力の指標となる。今、集団のうち\rhoの割合の人が既に感染していたとする(0 \leq\rho\leq1)。この状況で1人の感染者が、あたらに感染させる感受性者は(1-\rho)\times R_0 。流行が収束に向かうためには、1人の感染者から感染する人数が1を下回る必要があるので、(1-\rho)\times R_0<1となり、この条件にR_0 = 2.5 を代入すればよい。