日本企業の「内部留保」とコロナ危機

日本の内部留保至上主義について産経の記事に記事がある。日本の大手企業は平時に内部留保(ここでは現金保有としておく)を蓄えており、今回のコロナ禍で資金繰り・雇用維持に役立っていると。

 

平時には批判されてきたこの「ため込みすぎ」であるが、国際比較で日本企業はどの程度現金保有しているのか、最近BISがレポートで言及している。

 

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グラフは「(現金+短期資産ー短期負債+利息費用)/総資産」を表しており、ボックスは上位25%、75%タイル点を表している。 

 

まず、他国と比較して流動性の確保は非常に高いことが分かる。また先の金融危機時と比較しても、現金保有率を増やしていることも確認できる。産経の記事に「リーマン・ショック時に、「銀行がなかなかお金を貸してくれない」と資金繰りに四苦八苦した経験」から内部留保確保を進めているという指摘と整合的だ。

 

 

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本レポートではシナリオ分析も行っており、売上が25%下がる前提(費用弾力性:60%とする)で「保有キャッシュ+収益」が「営業費用+利息費用」を下回る企業の比率を推計している。この資金不足に陥る企業の比率も日本の場合、他国と比較して低い値になっている。

 

ただ、今回のコロナ禍は功を奏しつつある高い現金保有比率だが、ポストコロナの時代の成功を約束するものではない。メリット同時にデメリットもある。

 

そもそも企業が現金比率を高めているのは、危機時に流動性が確保できないという想定に基づく。本来ならば、コロナ危機で一時的に収益が下がっている企業は金融市場で資金調達できる、もしくは金融当局が必要に応じて流動性を供給するという形で危機を乗り越えるべきだと思う。実際、現状米国ではFRBが資金供給を出動しており、コロナ危機が一時的なショックでその後の収益性が期待できる企業は資金繰りに困っている状況ではない。

 

企業が内部留保を優先するということは、社会の将来への投資が制限されることを意味する。それは見えにくい形で成長率低下等のコストになっていく。また、コロナショック後の世界は、人々の選好も変わるはずで多くの企業は何らかの形でビジネスモデルを変革していく必要がある。現金確保を優先するというのは、この企業の新陳代謝をすすめるという観点からはマイナスである。