債券ETFのショック吸収機能

 FTに債券ETFに関して面白い記事を見つけたので自分メモ用に。

 

まず、ETFの仕組みだが日興アセットのイラスト(下図)にある通り、2つのマーケットから成り立っている。

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ETF仕組み

 

1つは 流通市場で、最終投資家が証券会社を通じて上場されているETF仕組みを取引する場だ。ここで取引しているETFは例えば日経平均に連動している、ということになっている。ただ、この時点では原資産を取引している訳ではないので、厳密には流通市場のETF価格(取引所価格)はこの取引所での需給によって決まるというのが正確だ。特にショック時には、裏付け資産価値との関係が問題になる。

 

ETFがファンドとして日経平均に組み込まれている銘柄を保有していたとすると、その株価の時価合計額は純資産総額(Net Asset Value, NAV)と呼ばれる。このNAVをETFの発行済口数で割ったものが基準価額となり、本来的には最終投資家の保有するETFの価値はこの値になるべきである。ところが実際にはこの取引所価格と基準価額の乖離がよく起こる。

 

この乖離を小さくする仕組みが、指定参加者(マーケットメイカー)による裁定取引だ。裏付け資産と取引価値に差があれば裁定機会が存在する、つまりもしETF取引価格が裏付け資産に対して割高に取引されていれば、ETFショート・裏付け資産ロングのポジションを組めば価格差が小さくなる過程で利益をもたらす。オペレーション的にはETF流通市場にETFを放出し、株式を市場から調達して新たに受益権(ETF)を設定するということになる。マーケットメイカーはこの発行市場での取引を通じて、流通市場のETF流通量をコントロールしながら基準価額と取引所価格の差異を小さくする役割を担っている。(マーケットメイカーの役割詳細

 

さて、本題に戻るが、2020年3月コロナショックの影響で米国社債価格が下げた。その過程で米国社債ETFの基準価額と取引所価格差が広がったのだ。流通市場におけるETF価値が裏付け資産を大きく下回る価格で取引される状態が続いた。ETFが市場の歪みを生んでいるとの誹りを受けることも多いが。今回はETFが債券市場に流動性を提供したのではないか、と評価しているのがこのFT記事の要旨だ。

 

株式と異なり、債券市場はそもそも流動性が少ない。この記事によると、2018年米国に登録されている社債は21,175銘柄あるが、そのうち全取引日に少なくとも一度は取引された銘柄は246銘柄しか無いという。そもそもこの市場の流動性の低さを考えると、債券ETF市場においてもマーケットメーカーの対応スピードが(株式ETFと比較して)低くなるのは致し方ない。

 

 さて、本記事はこのETFの流通市場価格がむしろ本来の債券価値を表していたと主張している。このショック時には投資家はとにかく現金化するというニーズがあった。これを実際の債券市場で行おうとすると、特定の社債の買い手をマーケットから探してくる必要がある。流動性の低い個別銘柄によっては大きく流動性リスクをディスカウントした価格でしか処分出来ない可能性もあった。

 

この現金化ニーズを債券ETFが一手に担った。つまり流動性の低い債券市場においても、債券の売り手に対してなんとか流動性を提供し続けたというのである。